「今知っておきたい!なぜ開発にUXが必要か?~事例から学ぶUX導入への第一歩~」と題して、2021年9月16日にSHIFTがオンラインセミナーを主催。今回のセミナーでは、SHIFTの大澤和夫、野尻和宏、櫻井巧の3名が登壇し、2つのセッションが行われました。
このレポートでは、第1部「開発者がおさえておくべきUXの考え方とは?」、第2部「UX導入の具体事例から学ぶベストプラクティス」の各セッションの様子とポイントをお伝えします。
「利用時の品質」まで品質保証をする
最初のセッションである「開発者がおさえておくべきUXの考え方とは?」を担当したのは、UXコンサルタントの野尻。なぜ、SHIFTがUXに取り組んでいるのか。多くの方々の疑問を解消することからセッションはスタートしました。
これまで数多くの品質保証を手がけ、数えきれないほどの不具合を解消してきたSHIFT。しかし「不具合の解消だけで、サービスの品質を保証できていたのか」と、かつてSHIFTが抱いた疑念を野尻は紹介します。「顧客体験をしっかり保証してこその品質保証なのではないか」と大きな気づきを得て、製品の品質だけでなく、「社会が必要としている『利用時の品質』まで品質保証をしていくに至った」とその経緯を説明。さらに、「優れた『利用時の品質』を実現するには、UX向上に取り組むことが不可欠」とSHIFTがUXに取り組む理由を語りました。
UXの取り組みが遅れるほど、他社との差は歴然に
「UX」という言葉をよく聞くようになったのは、ここ最近です。その背景は「大きく2つある」と野尻。そう話して、背景の1つ目にあげたのは「商品やサービスのコモディティ化」です。「技術やテクノロジーの発展により、機能の有無が競争優位性になりにくい」と分析し、「UX」に注目が集まるようになったことを紹介しました。
背景の2つ目としてあげたのは「インターネットや多機能端末の普及」です。インターネットを通じて、サービスがどこでも受けられるようになったいま、「さまざまな利用状況に応じて満足度の高いサービスが求められるようになってる」と野尻。そして「そのようなことからも、UXという形で『体験の価値や満足度』という考え方が注目されるようになってきています」と結論づけました。
野尻は「矢野経済研究所の調査によると、すでに2018年の段階で、UXに関する売上が右肩上がりになることが予想されていたんです」とデータも紹介。また、SHIFTがUX向上の取り組みについて実施したアンケートで「直近3年以内にUX向上への取り組みを開始した」という企業が多かった調査結果も提示しました。そして、「UXの取り組みが遅れるほど、他社との差がどんどん広がっていく」と指摘します。競争優位性を保つためにも、「すぐにUXの取り組みをはじめるべきです」と野尻は強調しました。
UX品質ガイドラインがSHIFTの強み
「UX」の定義には「利用者」「利用時」というキーワードが出てきます。野尻は「『利用者』『利用時』をしっかり考えることで、提供するべき最適なサービスの姿が明確になる」と説明。そして、SHIFTが提供しているUX手法を紹介しました。その手法とは「ペルソナ・シナリオ手法」。「ペルソナ・シナリオ手法」は、UXを考えるにあたっての必須手法の1つ。「プロジェクト関係者内で、共通の認識をもつため、具体的なペルソナ像(=利用者)とシナリオ(=利用シーン)を明記する手法です」と解説を行いました。
さらに、「UXエキスパートレビュー」という手法も紹介します。「UXエキスパートレビュー」とは「公開されているサービスや画面設計時、リリース前のチェック時に専門家の知識や経験を活用し、効率的にUX課題を見つける方法」です。通常、エキスパートレビューは、専門家の知見によって差が出てしまいます。しかし、「SHIFTでは『独自のUX品質ガイドライン』を用いることが大きな特徴」と野尻。つづけて「このガイドラインを活用し、ペルソナ、シナリオを想定して評価するため、第三者検証として、無駄なく、漏れなく、担当者によるばらつきのない評価をすることが可能です」とSHIFTの強みをアピールしました。
セッションの最後にとり上げた手法が「ユーザーテスト」。これはペルソナやサービス利用者に近い一般ユーザーを集め、サービスを利用してもらう手法です。「利用者ならではの問題点や改善点を発見できます」と野尻はメリットを語り、「UXは利用者と利用時がポイント。UX手法をうまく活用していきましょう」と話して第1部のセッションを締めました。
ターゲットとペルソナを区別して考える
第2部は「UX導入の具体事例から学ぶベストプラクティス」と題し、櫻井、大澤、野尻3人がディスカッション形式でセッションを行いました。櫻井が最初のディスカッションのテーマにあげたのは、「利用時の品質を検証するときに大事なこと」。まず野尻が「『利用者』『利用時』をきちんと考えておくことが必要。そのためにもペルソナやシナリオを、しっかりと定義すべき」と回答しました。「利用者像にズレが生まれると、前提が違ってしまう」とさらに注意を促します。「だからこそ、ターゲットとペルソナを区別して、しっかりペルソナを考えることが大事」と語りました。
ここで「ターゲットとペルソナの違い」を大澤が質問します。野尻は「ターゲットは年代や性別などでセグメンテーションするもの」と返答し、ペルソナについては「ターゲットに該当するグループから、一人をピックアップして、スポットライトを当てる感じ」と解説。「年齢や性別にはじまり、趣味、性格など、詳細に利用者をつくりこんでいきます」とペルソナの考え方にふれました。
利用時の品質検証は、ユーザー目線を頼りに
つづいてダミーのECサイト画面(ペルソナはお年寄りに設定)を利用し、機能面のテストに関しては大澤が、UXの改善点は野尻や櫻井が解説を行いました。そのなかで、サイトの問題点を指摘する際は、「つくったペルソナを前提に指摘していくことが大事」と櫻井は強調。また、ペルソナがサイトを利用する際、わからないことがあると買い物を躊躇してしまったり、時間がかかってしまうことも紹介されました。その改善策としてペルソナが情報を正しく理解できるように表示すると共に、どういった行動を起こせばよいのかという部分まで「メッセージをつくりこむことが大切」と櫻井は解説しました。
「そもそも製品品質と利用時の品質の検証は、概念が違う」と櫻井。製品品質は仕様書をもとに検証・テストしていきますが、利用時の品質には仕様書が多くの場合ありません。「何を頼りにするのか、それはユーザー目線だと思うんです。そこを頼りに進んでいくことがポイント」と櫻井は話します。そして、最後に利用時の品質を検証する際、「ペルソナやシナリオの設計が大切」と改めて強く語り、「利用者目線で考えましょう」と締めて今回のセミナーは終了しました。
SHIFT主催のセミナー、次回もご期待ください!