2021年9月9日、「ビジネスを『賢人』から学ぼう」をキャッチコピーに、オンラインで開催された「SHIFTゼミナール」。そのなかで、ジンズホールディングスの代表取締役CEO 田中仁さんをお招きし、丹下と「密談」を行いました。破格の安さやブルーライトカット眼鏡など、アイウエア業界に多くの革命を起こしてきた田中さんは、何を語ったのか。そのポイントをまとめていますので、ぜひご覧ください。
どんな「密談」が行われたのか。まとめはこちら!
丹下から最初の質問:なぜ、今日の「密談」に登壇したのか?
- 田中さんは講演をほとんどしない
- 今回の密談に出たのは、丹下の話を聞きたいと思ったから
- 「丹下さんの話もぜひ聞きたい」と田中さん
- まずは田中さんが自身のプロフィールを紹介
- 子ども時代から親や先生の言うことを聞くのが嫌いだった
- 「これは商売をするしかない」と考え、そのために信用金庫に就職して起業
- 「かなり珍しい!」と驚く丹下
- 信用金庫に勤めたのは4年半ほど
<<信用金庫勤務時代について>>
- 信用金庫勤務時代はバイクで預金を集めたり融資したり、いろいろやった
- 当時のおもしろい出会いについて、丹下が質問
- かつては、エンジェル投資家もベンチャーキャピタルもなかった
- 商売に失敗することは、人生に失敗することを意味した時代
- よほどの覚悟がないと、商売に1歩を踏み出さない
- 「生涯をかけて商売をする人が多かったんじゃないかな」と振り返る田中さん
<<起業当時について>>
- 「1歩踏み出して、紆余曲折やりながらも成長してきた」と田中さん
- 1988年、田中さんは雑貨企画会社を起業
- そのときのオフィスの賃料は月5万円
- 当時にしては高かった
- 「5万円をかけるのは大きな勇気!」と丹下も同意
- 田中さんは「いまは起業しやすい環境だが、厳しい時代に起業したことに感謝している」と語る
丹下からの質問:アイウエア業界に参入するまでは、ずっと雑貨の卸業だったのか?
- 田中さんは2001年、アイウエア業界に参入
- 1988年の創業から10年以上たっていることから、丹下が質問
- 「それまでの雑貨企画会社は、自分たちで企画した雑貨を都内のアパレル企業に卸していた」と田中さん
- 製造と販売も国内で行っていたが、円高により製造を海外にシフトしていた
- 2000年に韓国に行ったとき、15分ほどの時間で、3,000円で眼鏡を買えるビジネスモデルを知る
- 日本では3万円ほどする眼鏡が、なぜそんなに安いのか気になり、調べてみることに
- すると、日本の眼鏡業界は流通経路が複雑なうえ、「眼鏡は買い替えないもの」とされていた
- 当時、大ヒットしていた大手アパレルのフリースはSPAで生産
- それにヒントを得て、「自分たちで製造から販売まで一気通貫したら、もっとクオリティの高い眼鏡を安くできる」とひらめいて事業開始
「安い眼鏡」は絶対にニーズがあるとつかんでいた
丹下からの質問:サプライチェーンまで自社で構築するのは大変そうだが、どうやったのか?
- 「輸入は雑貨事業で経験しており、調達に問題はなかった」と田中さん
- メガネは医療機器なので、製造販売に必要な許可を得た
- 創業メンバーはこのころ20名ほどで、そのなかの貿易担当メンバーで輸入
- 田中さん自身がフレームやレンズのメーカーと交渉した
- 日本のメーカーには「業界を壊すようなところには卸せない」と言われてしまい、韓国へ
- しかし、韓国でも「日本にはいいメーカーがあるのに、なぜ来たのか」と門前払いに
- 十数社回り、やっと協力を得られて事業が成立した
丹下からの質問:当時はどんなブレイクスルーポイントがあると仮説を立てていたのか?
- 「すでに、何万人もの日本人が韓国で安価な眼鏡を買っていた」と田中さん
- 「安価な眼鏡」には絶対にニーズがあるとつかんでいた
- 1店舗目は福岡の天神に出店
- 出店すると、宣伝しなくても口コミですぐに売れた
- 「すごい!」と丹下
- 朝10時に店舗がオープンして、午後2時には受付を止めるほど
- 「物販にはないイメージですね!」と驚く丹下
- 田中さんは「15坪の店内にいつも50人ほどのお客さんがひしめいていた」と振り返る
- 当時は眼鏡の多くが3~5万円ほどしたため、予備の眼鏡が買いにくい状況
- 5,000円で眼鏡を買えれば、欲しい人が大勢いた
- 「潜在ニーズですね!」と丹下
丹下の質問:店舗が急速に増えるなか、従業員教育や業務フローの構築などは手探りで決めていったのか?
- ジンズホールディングスの業績推移を見ながら、丹下が質問
- 「勝ちパターンが見いだせたのは上場したあと」と田中さん
- ジンズホールディングスは2006年に上場
- 従来の眼鏡メーカーも格安眼鏡業界に参入するようになり、伸び悩んだ
- その差別化のため、当時手がけていた雑貨と眼鏡を組み合わせて大手ではできない店づくりをしたが、失敗
- 店舗の増減を繰り返し、最終赤字になった
- そのころ、大手アパレル企業の会長に「ビジョンや志なき経営は絶対に成長しない」「御社に将来はない」と言われてしまった
- 時価総額は8億円程度で、上場廃止のレッドゾーン
- 叱責されたことで「わが社はなんのために存在し、自分はなぜ働くのか」が明確でなければ、気合の入った経営はできないことに気づいた
- それに気づけたのは、「本当に覚悟を決めて、自分の思ったことにチャレンジできていない」という感覚があったため
丹下の質問:ビジョンはどう決めていった?
- ジンズホールディングスは2008年に「メガネをかけるすべての人に、よく見える、よく魅せるメガネを、市場最低、最適価格で、新機能・新デザインを継続的に提供する」というビジョンを制定
- ビジョンを決めたプロセスについて丹下が質問
- 「役員で議論してビジョンを決定したが、自分のなかにすでにイメージはあった」と田中さん
- 「よく魅せる」「継続的に」という言葉は、「お客様にとって、こういうことを提供してくれる会社だったら絶対買ってくれる」という発想から入れた
- いま考えると、これは戦略
- 戦略は時代によって変わる
- いまは、このビジョンにある戦略だけでは足りない
- このビジョンが木の幹であれば、根っこが必要
- そのため、2014年に「Magnify Life(マグニファイライフ)」を制定
- 自分たちがつくり出す製品やサービスで、人々の生活を拡大し、実りあるものにしよう、というビジョン
- そこから、自分たちの戦略が都度出てくる
- 「経営者は、自分たちの立場や社会から求められるあり方を考えて、アップデートして、揺らがないビジョンにしていかないといけないですよね」と丹下
- 志を明確にして戦略をびしっと決めるのが経営者の仕事
従業員教育のため、広告宣伝費を人件費に振り替え
丹下からの質問:「ここはブレイクスルーした」というポイントは?
- 「1番ブレイクスルーしたのは、2011年のブルーライトカット眼鏡」と田中さん
- この時は業績も急上昇
- ブルーライトカット眼鏡は2009年の後半ごろから準備を進めていた
- 戦略のなかにある「新機能・新デザイン」を追求
- メガネはどういうものなのかを考えたとき、「目を守る」という発想に
- このころはエアフレームの発売や、テレビCMなど多くのことをやった
<<従業員の再教育について>>
- ブルーライトカット眼鏡の大ヒットで売上が一気に350億円ほどになり、店舗もさらに急増
- その結果、2013年ごろに従業員教育の壁にぶつかった
- それを乗り越えられた大きな要因は、広告宣伝費を削って人件費に振り替えたこと
- 広告宣伝により知名度が上がり、店舗数も一気に伸びたが、従業員を再教育する必要が出てきた
- 一方的な教育ではなく、従業員にも自分事化してもらいたい
- ただ「やれ」と言ってもだめなので、人件費率を7%アップ
- 新卒の初任給20万円を23万5,000円に、それに合わせて全員の給与も高くした
- 人件費は15~20億円もアップしたが、それを継続
- 「社長大丈夫ですか」と言われるほどだったが、「そのくらい払えないなら、やっている意味がない!」と腹を決めた
丹下からの質問:2012年ごろの広告が衝撃的だったが、企画力も重視していた?
- 「社会一般的に、安い眼鏡屋はあんまり信用されなかった」と田中さん
- それを変えるためには、サイエンスが必要だった
- 特に機能性メガネは、機能に対するエビデンスが重要
- しっかりしたアカデミアと組み、エビデンスがあるものしか売らないようにした
- エビデンスをもって営業をかけた結果、大学の放射線科の先生方や、診断医なども使ってくれるようになった
- 「マーケティングに関しては、当時の現場担当がみんな頑張ってくれた」と田中さん
- インフルエンサーマーケティングなどにも着手した
似たような店舗があっても、最後に残るのは本物
丹下の質問:デザイン性の高い店舗は田中さんの感性で生み出されているのか?
- 「会社なので組織的な動きはあるが、自分自身がデザインや建築を好き」と田中さん
- 「デザインはなかなか定量的に数値化できない」と丹下
- 以前、丹下は田中さんに「本物のデザイナーと付き合った方がいい」と言われたことがあり、田中さんのデザイナーを選ぶ目利きが気になっている
- 「やっぱり感性」と田中さん
- 世の中に一流のデザイナーはいっぱいいるが、それぞれに個性がある
- そのデザインが好きかどうかは完全に感覚
丹下からの質問:世の中のマジョリティとデザインの感覚がずれないように気にしていることはあるか?
- 「デザインはビジョンを具現化する手段」と田中さん
- どういうビジョンをもっているかで、デザインは変わる
- 自分の好きなデザインを選ぶのではなく、ビジョンから落とし込んだ方がいい
- JINSは一部の人だけに選ばれるのではなく、みんなに愛されるデザインを考えなくてはいけない
- 厳密にいえば、みんなに愛されるデザインはあるわけがない
- そこは、自分たちでスタンダードを敷いていく
- スタンダードは経営者がやりたいことで決める
- そこもPDCAを回すしかない
- 「やっぱりPDCAですね!」と丹下も賛同
丹下からの質問:海外進出のポイントは?
- 「やはり大きいのはアメリカと中国」と田中さん
- フィリピン以外は100%子会社
- ここで丹下が、中国の成功のポイントを質問
- 単年度で黒字になったのは珍しい
- その要因は、「JINSのようなビジネスモデルが中国になかったから」と田中さん
- 極端に安い眼鏡と、日本の眼鏡店が売っていたような高価な眼鏡はあった
- JINSはちょうど中間の価格帯
- 中国は中流層が増え、ライフスタイル重視の人が増えた
- そこにJINSがうまくマッチ
<<中国・アメリカでのビジネス>>
- 「中国は屋号や店舗がそっくりの店がポンポン出てくる」と田中さん
- しかし、真似した店舗は新しいものをどんどん出すことはできない
- 似たような店舗があっても、最後に残るのは本物
- 「歩みを止めてはいけないんですね」と丹下
- さらに、「消費者は背景やストーリーを敏感にかぎ取る能力がある」と田中さん
- だから「自分たちのビジョンや考えていることは常に発信しなければならない」と丹下
- 海外は、コミュニケーションのむずかしさが常にある
- 田中さん曰く、特に人種が多いアメリカはポジションをつくるのがかなりむずかしいとのこと
丹下からの質問: 概念が飛躍しているような業界への進出は、なにを追及している?
- JINSがワークスペース業界などにも進出していることについて、丹下が質問
- 「これはある意味実験」と田中さん
- 集中力を可視化するウェアラブルデバイスで「働く環境を変えたら人はどれほど集中できるのか」という実験をしているとのこと
- 「上場企業でやりづらいことはいっぱいあるが、かなりチャレンジですね!」と丹下
眼鏡のプラットフォーマーとして、できることがある
丹下からの質問:DXもいろいろあるが、どういうDXを考えている?
- 田中さんにとってDXは「JINSをディスラプトすること」
- JINSは価格や店舗、納期など、眼鏡業界の不満を解消して伸びた
- しかし、いまやそれが当たり前になっている
- そのなかで、どう変えるのかを考えたとき、「メガネではなくJINSそのものをディスラプトする」と思いついた
- JINSがメガネをただ売って横展開していくビジネスモデルをつづける限り、本当のDXはない
- DXは、ビジネスを刷新させること
- JINSはSPAでものを売って利益を得ているが、まったく違うビジネスに変われる可能性もある
<<田中さんが考える新しいビジネス>>
- 例えば、JINSが開発するメガネ型のデバイスから有益なデータを得られるのなら、それを何万人に無料で配ってもいいかもしれない
- デジタル技術を提供するフランスの企業にも投資している
- 眼鏡のプラットフォーマーとして、できるDXがあるかもしれない
- デジタル技術に投資をしてサービスをつくるのはすごくお金がかかる
- でも、業界みんなでその技術を使ってもらうこともありえるかもしれない…など、いろいろ考えている
- 「なかなかいない!」と丹下も感嘆
丹下からの質問:もともと、「人類のためにできることがあるか」という思いが根底にある?
- 「ただ利益を上げるだけなら、いまのビジネスモデルで金太郎あめのように横展開していく方が利益は出せる」と田中さん
- ただ、いまは時代が変わる節目
- 有益で、サスティナブルなビジネスにするために、いまとるべき手をずっと考えている
- DXはECでの収益力アップや業務効率化の話で終わりがち
- しかし、DXでJINSを刷新したい
- ビットコインやARも、以前は考えられなかった
- 「お金の在り方、価値の考え方がディスラプトしている」と丹下
- IoTデバイスで残るのは、日ごろつけられる腕時計と眼鏡
- 無料でデバイスを配り、プラットフォームができると経済圏ができる
- いまJINSは近視を抑制する眼鏡もつくっており、「常識を変えたいよね!」と田中さん
丹下からの質問:イノベーションを起こしたい人が、体験するべきことは何か?
- 「たぶん、そういう考えでいると、会いたい人も学びたいことも出てくる」と田中さん
- 意思をもつだけで自分の行動は変わる
- 自分がどうありたいかを明確にすることが一番大切
- 明確になると、手段が出てくる
- 仕事は意思をもちこまないと、流されてしまう
- スタッフにも「意思をもて」と伝えている
- JINSは、いまの成長力にとどまる会社ではなく、もっと大きく成長できるはず
- これまでの田中さんの話を振り返り、「ゴールにすぐにたどり着けそう」と丹下
- 田中さんは丹下に同意し、「自分のなかでは焦りがない」と語る
- いずれ、いまと違う売上利益と時価総額になるという根拠のない自信がある
丹下から最後の質問:みなさんにメッセージをひとこと!
- 「究極は、好きなことに夢中になること」と田中さん
- 夢中になれない仕事はやめた方がいいかもしれない
- 嫌いだと思っていたことでも、一生懸命やると好きになる場合も
- つらいことも大変なこともいっぱいあるが、働くことで人としての大きな気づきが得られる
- ワークライフバランスは大事かもしれないが、仕事漬けになる時間ももたないとブレイクスルーできない
- 「やりきった時間が糧になる!」と田中さんがメッセージを贈り、密談は終了!