2022年1月27日、「ビジネスを『賢人』から学ぼう」をキャッチコピーに、オンラインで開催された「SHIFTゼミナール」。そのなかで、ラクスル株式会社 代表取締役社長CEO 松本 恭攝氏をお招きし、丹下と「密談」を行いました。インターネットを既存業界にもち込み、数々の変革を起こしてきた松本氏は、何を語ったのか。そのポイントをまとめていますので、ぜひご覧ください。
当日配信された動画コンテンツはこちら!
どんな「密談」が行われたのか。まとめはこちら!
丹下から最初の質問:改めて自己紹介を!
- 松本氏はラクスルのオフィスから参加
- 開放感あふれるオフィスに丹下が感心
- スタートアップの代表格といえるラクスルの松本氏との対談を、丹下は楽しみにしていた
<<松本氏の自己紹介>>
- まずは、松本氏が自己紹介
- ラクスルを創業したのは2009年の9月
- 松本氏は大学卒業後、コンサルティング会社に入社
- しかし、入社直後にリーマンショックが起こり、「ひたすらコスト削減をしていた」と当時を振り返る松本氏
- コンサルティング会社での業務のなかで、印刷業界の非効率さに気づいた
- 「印刷業界の非効率を解消する仕組みを提供できれば、ビジネスになる」とアイデアが浮かぶ
- 当初は、機械部品や工具・消耗品などの受発注プラットフォームを担う金物部品メーカーのようなビジネスモデルを印刷業界でつくろうと思い起業した
- 多重下請け構造にある小さな印刷会社をつなぎ、仮想的に大きな印刷工場をつくることを構想
- 納期がはやく、コストを低く、印刷会社の利益も多くなる仕組みを目指した
- 創業当初、資本は自己資本の200万円のみ
- 「24歳ごろは、食費1日500円で過ごしていた」と松本氏
<<最初に立ち上げた価格比較サイトについて>>
- 創業時は、システムをつくるお金も、マーケティングにかけるお金もない
- まず2010年、松本氏は印刷会社の価格を比較し、見積もりにつなげるサイトを立ち上げた
- SEOにも注力し、印刷業界でトップクラスに人が集まるサイトに成長
- サイト上で、印刷会社とお客様のマッチングはしていたが、決済には関わっていなかった
- 印刷物の納期や品質の担保が難しく、印刷会社とお客様間で支払いトラブルも発生するように
- 「自分たちでクオリティをコントロールしないと大きくなれない」と思い至り、価格比較サイトから、自分たちが決済をもち、印刷物を提供するサービスに事業転換を決意
- 出資を受けて得た資金をもとに事業転換し、5年ほどで上場を果たす
<<現在の事業展開について>>
- いまでは、同じような発想で「ハコベル」や、効率的なクリエイティブの制作を支援する「ノバセル」なども展開
- 「ノバセル」は、費用対効果をすべて見える化し、効果を計測し、改善していく運用型テレビCMの制作を支援する
- また、2021年の9月には「ジョーシス」をスタート
- 作業量の多さから、外注されがちな情シス部門の単純作業を自動化するサービス
- さらに、段ボールのEコマースの会社ダンボールワンを買収
- 「複数の業界で、いろんなことをやっている」と松本氏
- 「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンで事業を展開
- 伝統的な産業にソフトウェアをもち込んで、産業のあり方を変えていく
- いろいろな業界でプラットフォームをつくり、20年、30年後に、その領域でデジタル化を進め、日本社会でほとんどの人が使っているプラットフォームにしていきたい
- 「素晴らしいです」と丹下が感嘆の声をあげる
大学時代に投資を経験し、勝機を見定める感覚を培った
丹下の質問:起業前は、ほかにどんな業種を見ていたのか?
- 松本氏は「アメリカでうまくいっているビジネスを調べていた」と回答
- アメリカから取り入れようとしていたものでは、クラウドソーシングをあげる
- ほかにもBtoBのクリーニングなどに注目していた
- 印刷業界はマーケットが大きく、確実にニーズがある
- さらに、業界の構造課題もクリアにあったので、「なんとかなるだろう」と思い、起業
丹下の質問:勝負していい感覚はどこで身につけたものか?
- 松本氏はコンサルティング会社に新卒入社し、その翌年に起業
- 「勝負をしていい」と思えた感覚はもともとのものなのか、なにか経験によるものか丹下が質問
- 「大学時代、投資をしていた」と松本氏
- 投資の経験から、デジタルのペネトレーションが起きようとしていて、マーケットが大きかったため印刷業界はいい業界だと考えた
- 当時、インターネットが普及していたのはBtoCの業界
- 「BtoBであればまだ誰もやっていないが、20年後、30年後にはすべての会社でデジタルをベースに業務をまわしている」と想定
- 十数年前にはすでに、あらゆる業界がデジタル化していく確信があった
- マーケットがこれから立ち上がって、競争が少ないところであれば勝算がある
- 「かなりセンスがいい!」と丹下が絶賛
- 大学時代の投資で得た利益が、起業時の資本金に
シリコンバレーで刺激を受け、「課題を解決する新しいサービスをつくりたい」と思うように
丹下の質問:起業したのは、とにかくビジネスをやりたかったから?
- 起業に至るまでの歩みについて、丹下がさらに深掘り
- 「一番大きいのは、大学時代にサンフランシスコやシリコンバレーに行ったこと」と松本氏
- 外資系企業入社を目指し、英語力をつけるためカナダのバンクーバーへ語学留学
- しかし、語学学校をつまらなく感じ、シリコンバレーへ
- 当時はシリコンバレー発のIT企業が注目されはじめた時期
- 楽しそうに働くシリコンバレーの人たちに刺激を受けた
<<シリコンバレーで受けた刺激>>
- チャレンジをして、新しいものを生み出している会社がたくさんあった
- 人から評価される仕事より、価値を生み出す仕事の方が楽しそうだと感じた
- 「起業したかったというより、ゼロからイチを生み出す過程をやりたかった」と松本氏
- 世の中にある課題を解消できる、新しいサービスをつくりたかった
- その想いがシリコンバレーで刻み込まれた
最初のやわらかいタイミングで考えすぎるより、やってみればいい
丹下の質問:資本金200万円で、どのように価格比較サイトをつくっていった?
- 松本氏は、「いまVCをしている人が大学の同級生にいた」と明かす
- その同級生がすごく応援してくれて、協力者の紹介もしてくれた
- 草野球的に友人を集め、手伝ってもらいながら価格比較サイトを構築
- 「デザインとフロントエンドは自分でやった」と松本氏が明かし、丹下も驚き
丹下の質問:価格比較サイトの営業などはどうやっていった?
- 価格比較サイト構築後の運用について、丹下が質問
- 「業界サイトなどをコピーして、ひたすら電話をかけて、興味をもってくれた人に会いに行って営業していた」と松本氏
- 「すごい!」と丹下が感嘆
- 「人も資金もないので、それをやらないとご飯が食べられなかった」と松本氏
- 印刷通販の価格比較サイトだけでなく、3つ同時にサービスを立ち上げていた
- ECサイトと、印刷会社向けのEコマースをはじめるサービスを同時にスタート
- Eコマースのサービスには200万~300万円ほど売上が
- 価格比較サイトも、当時ほかにないメディアだったので電話をかけたら広告枠が売れ、1ヶ月目から100万円ほどの売上
丹下の質問:ネット印刷の競合他社をどう思っていた?
- 松本氏は「起業するタイミングで、競合他社の存在を知らなかった」と明かし、丹下は大笑い
- 起業してから、「競合にどうやって勝つのか」と聞かれて存在を知る
- それでも、メディア(広告枠)の仕事はとれた
- 100社以上も印刷会社をまわり、印刷業界での評価を獲得
- 「戦略コンサルにいた人が、地道に営業するのは珍しい」と丹下
- 当時の思いを聞かれた松本氏は、「お金がなく、売上がないと食べられない切実な状態だったので、何でもしていた」と回答
- 当時、資料ばかりつくっていたのはよくなかった
- 1回やってみて、印刷会社様やお客様のフィードバックを受けると最初に見えていたものとは全然違う結論が出る
- 最初のやわらかいタイミングで考えすぎるより、やってみる方がいい
- 「準備期間のトライアンドエラーのやり方は、もっとうまくできたと思う」と松本氏
- サービスのローンチ後はサービスをつくっていくことに必死になれた
「中小企業をつくりたかったの?」のひとことから、自分の志を思い出す
丹下の質問:当時、地道に現場のことを聞いて、ペインポイントを探っていった?
- 「いまほど、いろいろなものが整っていない時代だったので、『お金は払えないけど手伝って』という話をしていった」と松本氏
- 自分はエンジニアではないので、とにかく営業に注力した
- 学園祭のような、ひたすら必死に頑張る2年間だった
<<丹下と松本氏の出会い>>
- 丹下は、2012年ごろにラクスルへ営業に行っていた
- 伸び盛りの面白い会社としてラクスルを知り、訪問
- 「本当ですか!?」と驚く松本氏
- 丹下は「活気がありましたよね」と振り返る
丹下の質問:価格比較サイトではなく、流通そのものを提供するプラットフォームを構築することにしたのはなぜ?
- ピボットの背景を丹下がさらに深掘り
- 当時の状況を松本氏が振り返る
- 価格比較サイトで、年間約5,000万円の広告売上が立つようになった
- サイトトラフィックも、月間ユニークユーザーが40万~50万人ほど
- 見積もり額も、月間で何十億円と流れるように
- しかし、クレームが増加
- 品質の担保をしていなかったため、安かろう悪かろうの方向に流れていった
- お客様側の審査もしていなかったため、納品したのにお金を支払わないなどの問題が発生
- GMV(流通取引総額)を伸ばしていくことも、クオリティのコントロールもできない
- 「このままでは、お客様にも印刷会社にも迷惑がかかる」と痛感し、事業転換を考える
- さらに、印刷業界で広告費に流れるお金はわずか
- 「印刷会社から広告費をもらう」というビジネスモデルはスケールしないと気づく
<<事業転換を決意したきっかけ>>
- 当時26歳で売上が400万円ほど、社員も1人という状況で、「悪くない生活はできた」と笑う松本氏
- しかし、投資してくれていた先輩に「中小企業をつくりたかったの?何のために起業したの?」と聞かれる
- そのときに、「仕組みを変えて世界をよくしたい」という自分の志を思い出す
- 「素直ですね!」と丹下
- 初心に返り、「どうすると印刷業界を変えられるか」を考えた松本氏
- いまのままではなく、流通そのものをやらないといけないと思い至り、資金調達をして現在のモデルにピボット
丹下の質問:マーケットのひずみにはいつから気づいていた?
- 印刷会社に非稼働な部分が多く、非効率な点があることにいつから気づいていたのか丹下が質問
- 松本氏は、「新卒入社したコンサルティング会社で、いろいろと調べているときに気づいた」と明かす
- 非稼働の部分を安く提供できればよいと最初からわかっていた
- 当時、小さな印刷会社の稼動率は4割を切る程度
- 最初は、印刷物1枚あたりの価格を設定する形で発注していた
- 途中から、人件費とラインの利用費、変動費で支払う形も取り入れたハイブリッドなものへとかわっていった
生産性をコントロールするため、ラインを構築してノウハウを広めていった
丹下の質問:システム開発は大変ではなかったか?
- 「最初は、印刷会社の社数が多くなく、数社で回していた」と松本氏
- しかし、売上が伸びてきたときに、自分達でノウハウをもっていないといけないことを認識
- 低コストのサービスは、規模の経済がきいて、仕事があれば誰でもできるわけではない
- 仕事の量があり、効率よく回すオペレーションがあって、はじめて低コストでサービスを提供できる
- そうやって価格競争力をつけ、2014年にテレビCMを放映しはじめたタイミングで、売上が月次で倍々に伸びはじめた
- キャパシティがなくなってきたときに、エクイティで印刷機を購入
- 自分たちにオペレーションがないと生産性をコントロールできない状況
- 2014年~15年で印刷機を3台購入
- 印刷会社に印刷機を置かせてもらい、人員も派遣した
- 移動する歩数、段ボールの詰め方など、細部にまでこだわって印刷ラインをすべて構築
- そこでノウハウをつくり、広めていくやり方をとった
- 「大切なこと!本当はみんなそうした方がいい」と丹下も賛同
- プラットフォーマーとなったら、プラットフォームのみに徹する人は多い
- しかし印刷機まで購入してオペレーションを追求した松本氏はすごい
丹下の質問:印刷機を購入した当時を振り返って、どう思うか?
- 「(印刷機を購入してオペレーションを追求することを)やっていなかったら、いまのラクスルは絶対にない」と松本氏は断言
- 自分たちがしているビジネスのコアは、規模の経済とオペレーションエクセレンス
- マッチングだけをしていても、オペレーションエクセレンスがないので規模の経済を利かせられない
- 自分たちの競争優位は規模の経済を活かすオペレーションエクセレンスにあると思っていた
- 投資家の方から「簡単に真似できるモデル」と言われるが、オペレーションをつくれる組織は日本にはほぼない
- 同じ仕事量があっても生産コストが大きくなり、価格も高くなる
- 参入障壁をどこに築いていくか考えたときに、オペレーションにしっかりと入り込むのが重要だと考えた
- 「思いっきり入り込んだのがすごい!」と丹下
丹下の質問:「仕組みを変えて世界を良くする」ことのコアコンピタンスは何か?
- 「ビジネスによって違うと思う」と松本氏
- BtoBのリアルに関わる部分は、なんだかんだオペレーションエクセレンスが大事
- BtoBの場合、お客様が求めているのはシンプルなQCDであるケースがかなり多い
- QCDを満たすには、バリューチェーン全体を磨きあげないと、ほかではなく自分たちを選んでもらう理由をつくれない
- 「インターネット的な競争優位のつくり方より、リアルな産業に近い事業価値のつくり方をした方がいいと思う」と松本氏
コロナ禍でコスト削減に取り組むなかでの気づきから、「ジョーシス」が誕生
丹下の質問:「ハコベル」も「ラクスル」と同じ発想なのか?
- 物流のプラットフォーム「ハコベル」について丹下が質問
- 「ハコベル」のオペレーションエクセレンスはドライバーの審査を行い、ドライバーのクオリティが高いこと
- ドライバーによって、運送業はサービスクオリティに差がある
- 「ハコベル」が行う審査を通してサービスクオリティの高いドライバーをプールしている
- 通販会社などは、自分たちの荷物を運ぶクオリティが低いと、自分たちのブランドを下げてしまう
- それを審査におけるオペレーションで防いでいる
- 食品メーカーなどが自社物流として「ハコベル」の利用実績がある
- マーケットサイズは14兆円ほど
丹下の質問:新しいビジネスをはじめるときは、「ラクスル」を担うメンバーが素早く立ち上げを行うのか?
- 松本氏は「そこはまだ課題がある」と回答
- 各事業でスクラッチで採用から入っている
- 横に展開していったほうが効率がいいケースはあると思う
- しかし、ゼロからつくるとオーナーシップが生まれるので、いい点もある
丹下の質問:広告のプラットフォーム「ノバセル」のオペレーションエクセレンスは?
- 松本氏は「とてもオペレーションが磨きこまれた業界な分、データの勝負」と答える
- テレビCMに対するあらゆるデータから、どうしたら投資対効果を出せるか導けるのが強み
- ラクスルがCMを打つ時も、極力効果検証しながら、いいものだけをやっていった
- とにかく感性ではなく、データをベースに投資を決める
- その考え方をサービスにしたのが「ノバセル」
- スタートアップのなかではよくある方法だが、インターネット系でない会社はもっていない考え方だった
- そこをパッケージ化して提供している
丹下の質問:「ジョーシス」の背景は?
- 丹下は「ジョーシス」を見た瞬間、「これをやりたかった!」と感じた
- 誕生の背景にはコロナ禍の影響が
- 「2020年の2月に20億円あったラクスルの売上は、同年5月に12億円になった」と松本氏
- とにかくマーケティングコストをほぼゼロにまで下げた
- エンジニアのアウトソーシングコストも同じように削ろうとしたが、3分の1にしかならなかった
- その内訳をみると、ほとんどがコーポレートIT(情シス部門)にかかっているものだった
- なぜ減らせないのか業務内容を確認すると、貸与PCのセットアップやヘルプデスクなど、幅は広いけど難しいことをやっていないことに気づく
- この課題は人材派遣でしか解決されておらず、自動化もされていない
- 「これは自動化できるのではないか」と感じた松本氏
- 情シス部門は「面白くない、認められない」と感じられる部分が多いうえに忙しい
- 業界として、離職率も高かった
- 自動化できれば、経営者側の課題も情シス部門の課題も解決できる
- 「すべての会社がPCを使っているためマーケットも広く、課題解決できるのであれば事業になる」とアイデアが浮かび、やってみた
長い時間をかけて、産業に大きな変革を起こしていく
丹下の質問:さまざまな業界で事業を展開するなかで、今後どうしていきたいのか?
- 「BtoBの領域で、今後20~30年でマーケットの5割がデジタル化すると確信できる業界で、まだデジタルプレイヤーが出ていないのであればやった方がいい」と松本氏
- 必ずマーケットの重力がそちらに向いていくのが理由
- 間接材における領域をデジタル化していくため、幅広く産業を見ていきたい
- 事業がいろいろな産業に広がっているため、シナジーをいかにデザインして、1社でサービスを提供しているメリットを出していくかが課題
- 長い時間をかけて、産業に大きな変革を起こしていく
丹下から最後の質問:視聴者にメッセージを!
- 「長い時間軸で産業の変革を起こしたい」と松本氏
- 自分たちは新しい産業インフラをつくっていきたいと思っている会社
- 「経営者のみなさんも、投資家のみなさんも、長い目でラクスルを見守っていてほしい」と松本氏が締めくくり、密談は終了!