2021年8月10日に開催された、SHIFT恒例の「89(バグ)祭2021」。「SHIFTがつなげる、もっと身近なDX」をキャッチコピーに、さまざまなお客様、従業員が登壇し、20以上のコンテンツがオンラインで配信されました。
その冒頭を飾ったのが、アーティストの井田幸昌さんをゲストに迎えた「密談」。2018年にはForbes JAPANが主催する「30 UNDER 30 JAPAN」にも選出されるなど、いまや世界の注目を浴び、各国にコレクターを有する井田さん。その世界観や描く未来について、プライベートでも親交のある丹下が迫りました!「89祭2021」の参加者しか観ることのできなかった特別な密談をまとめましたので、ぜひご覧ください。
「密談」のまとめはこちら!
丹下から最初の質問:アーティストになろうと思ったのは、お父さんの影響なのか?
- 丹下が「世界を代表するアーティストのなかで、1番好き」と井田さんを紹介し、密談がスタート
- まずは、2017年にレオナルド・ディカプリオ・ファウンデーションオークションに最年少で参加するなど、井田さんの華々しい経歴を紹介
- 井田さんはアーティスト活動を2013年ごろから行っていて、絵画や彫刻、版画など、いろいろな作品を制作している
- ここで、アーティストになろうとしたのは彫刻家であるお父さんの影響なのか、まず丹下が質問
- 井田さんの回答は「ないとは言えないが、あまり受けていない」
- かつて、反発していた時期にはじめてお父さんに人生について相談し、「絵を描いてみたら」と言われた
- 画家になる気はなかったが、やりはじめたら深みにはまっていったとのこと
- お父さんとは別々に暮らしていた時期もあり、ちゃんと話したのは20歳を超えてから
- 「学生時代はバイトをして、苦学生だった」と振り返る井田さん
丹下からの質問:「墓石を彫る職人」だったのはいつごろか?
- 一時期、「墓石を彫る職人」をしていたという井田さん
- そこで丹下が経歴を質問
- 井田さんは芸大を目指して上京し、何度か受験したが合格はできなかった
- その結果から「自分には才能がないな」と思い、20歳ごろに一度就職し、墓石をつくる修行をすることに
- 修行のなかでも、「やっぱり絵を描きたい」という欲望が心のなかにたまっていき、当時の親方に相談
- 親方には「落ちたら一生石屋で働け」と言われ、最後の1回として受験したところ、合格できた
丹下からの質問:絵はいつから描いていたのか?
- 幼少期には、お父さんが地元に構えていたアトリエで絵を描いていた
- 「いつから描きはじめたかわからないくらい」と井田さん
- 絵の先生にはついておらず、美大を目指していくことを意識した16歳ごろから本格的に絵を描きはじめた
- 当時は「絵で食べていこう」とは考えておらず、抱いていたのは「とにかく得意なことをやってみよう」という思い
- 「美大に行きたい」と言っておけば、みんなが納得してくれると思った
<<美大の入試>>
- 「美大の試験は上手なら受かるわけではなく、先生の趣味趣向で合否が決まることもあり、運の要素が強い」と井田さん
- 井田さんは浪人生だった期間が長かったこともあり、「これぐらいでいける」という先生の趣味趣向にはまる絵を描けた
- 合格できるのは100点満点ではなく、伸びしろが感じられる80~90点の作品
- 戦略的に考えて受験に臨んだ
丹下からの質問:大学でアーティストとして生きていく覚悟は固めていたのか?
- 一回就職して、かわいがってもらった職場を辞めて大学にきているので、作家になる道以外はないと考えていた
- 「覚悟の違いはあるのかな」と井田さん
- 美大に行って勉強するなら、作家にならないと損だと思っていた
墓石を彫る修行のなかで、「アートってなんだろう」と考えるようになった
丹下からの質問:墓石を彫る職人の経験のなかで学んだことは?
- 「それまでは自分のためだけに絵を描いていたし、プロでもなかった」と井田さん
- 墓石職人も、「ものをつくる仕事」という点ではアーティストに近い
- 墓石は人が亡くなった後に使われるもので、ミスも許されなかった
- シビアな職人の世界だったが、うれしかったのは、お客様がしっかりした仕事をすると喜んでくれたり、自分が仕事を覚えたら上司から褒められること
- 墓石職人として修行するなかで、「アートってなんだろう」ということを考えるように
- 誰かに見てもらうことで成り立つ点はアートも共通しており、アートは自分自身の世界を出していかないといけないので、もっとシビアな部分がある
- その気づきから、「人からどう見られるか」「自分がどうすることで、人は何を感じるか」という意識が芽生えた
- これは意外とみんな抜けている部分で、無意識に自分中心になってしまうことがある
- 井田さんは「僕は自分のことは割とどうでもいい」と断言
- お客様と自分に関わる人のことで8割、自分のことは2割程度で考えている
- 「いい気づきだね!」と丹下
<<美大の入試で描いた「80点をとれる絵」>>
- 「井田くんの作品をはじめて見た瞬間、衝撃を受けた!画力が突き抜けている」と丹下
- そこから、100点をとれたのに80点に抑えたという美大の入試についてさらに深掘り
- 「受かる前の年に描いた絵の方が、できはいい」と井田さん
- 美大に行かないと作家になる道がなかったので、是が非でも行く必要があった
- 合格するため、「どれだけミスをしても60点をとれる状態にしておいて、本番で80点をとればいい」という考えに
- いまは120点しか狙っていない
120点の作品にするために、自分の想像を超える
丹下からの質問:自分の作品に点数をつけるとしたら?
- さまざまなテイストの作品を見ながら、丹下が質問
- 井田さんは「全部120点ですよ!」と即答
- 人に見せるものは、ボーダーを超えないと見せないようにしている
- 「プロの画家は1,000点描いたら1,000点ともいいもので、そのなかから選りすぐる」というのが井田さんのプロ理念
- 失敗した作品は、記憶からすぐデリートしてしまう
- うまくいかないと感じた作品は、その原因が構造の欠陥にあるのか、自分の実力不足か分析
- 構造の欠陥があるものは廃棄し、実力が足りないものはとっておくことも
丹下からの質問:「このパターンは確実!」というものは頭のなかにあるのか?
- 井田さんの回答は、「100点は常にとれる、120点をとるには自分の想像を超えなくてはいけない」
- 自分の想像を超えるために、形を一回つぶしたり、たくさん色を突っ込んでみたりして苦悶している
- 「絵画には無限に方法論があるので、言い出したらきりがない」と井田さんは苦笑
- 自分の想像の超え方を、パターン化するつもりはない
- クリエイションの大枠はあるが、その大枠のなかで遊べなくなった瞬間に自分自身が新鮮に画面に向かえなくなる
- ビジネスでも、ある種の型が必要になることもあるが、そこから1歩踏み出して挑戦して、トライアル&エラーをしないことには前進しない
<<抽象画の描き方>>
- ここで、井田さんの作品にある抽象画の話題に
- その作品は、抽象的な表現でありながら「顔が描かれている」ということはわかる作品
- 「どうやって『顔だ』って見せてるの?」と丹下に聞かれた井田さんは「描いている最中は、何も考えていない」と回答
- 絵は自立した存在だから、勝手に描いていってしまう
- それに従順にいられるかが勝負で、抵抗すると絵が腐っていく
- 「絵は王様みたいなもの」と井田さん
絵も言葉と同じく、シンプルに伝えるほうがむずかしい
丹下からの質問:作品がシンプルになっていった理由は?
- 丹下が井田さんの作品を知ったころと比べて、井田さんの作品はどんどんシンプルに
- 井田さん曰く、ミニマムな絵の方がむずかしいとのこと
- 1時間で人を説得することは誰にでもできても、30秒で人を説得するのはむずかしいのと似ている
- また、1時間も説得すると、相手にくどいと思われる場合も
- シンプルに「あなたのことが好きです」と言った方が伝わるのと同じ
<<絵具を無秩序に塗りつけた絵>>
- 絵具を無秩序に塗りつけた作品は、余った絵具をキャンバスに塗りたくったところ、いろいろな見え方がして美しいと感じたのが制作のきっかけ
- 絵具そのものがもつ美しさが、見る人のイメージを想起させると感じた
- そこから、絵具の値段の高さが話題に
- 色が綺麗で高価な絵具だと1本約5~6,000円
- 絵画1枚の制作費が数十万円になることも
- 原価は高くなるが、絵は残っていくものなので、品質が悪いものは使えない
本当に集中できるタイミングを逃さないように意識している
丹下からの質問:井田さんは王道のアーティスト?
- 井田さん曰く、アーティストにも役割がある
- 野球で例えれば、2番バッターになる人、ピッチャーになる人とさまざま
- 「たまたま僕は4番バッターだっただけ」と井田さん
丹下からの質問:ブロンズ像に込めている想いは?
- 井田さんは、油絵と並行してブロンズ像も制作
- 「父の影響で、ほんとうは彫刻家になりたかった」と井田さん
- しかし、猛烈に反対されてその道は断念
- 大学を卒業し、自分で生計を立てられるようになってから、やっと自分がやりたいことをできるようになった
- ブロンズ像のコンセプトは「リアリティ」
- 自分が思ったことを表現している
- 彫刻は現実に存在するもので、絵画よりも幅が大きくリアリティが表現しやすい
丹下からの質問:制作にかける時間は?
- 井田さんは、作品ひとつひとつの制作にかける時間は計ったことがない
- 1日で作品ができてしまうこともある
- 時間をかければいいものができるわけではない
- 「人間の集中力はたいしたことない」と井田さん
- 本当に集中できているのは年に2、3回ほどで、その集中力のなかでいかに仕事をするか
- 集中せずに、力を抜いて描いた方がいいときもある
- 基本的には、マックスの集中力はそんなにつづかないので、訪れたタイミングを逃さないように意識
- 井田さんは2、3日で一気に3~4ヶ月分の作品のイメージを頭のなかにストック
- だから、停滞せずにずっとつくっていられる
<<1番思い入れのある作品について>>
- いままでの作品のなかで、1番思い入れのある作品を丹下が質問
- 井田さんが「これは苦労した」と選んだのは、制作に3年ほどかかった巨大な絵画
- その作品のサイズは縦3.5m×横11mほど
- 同じものはもう描けないが、この作品ほどのサイズは描ける
- 描ける理由は「絵を描くことが好きだから」
- 大きなサイズの作品は全体を見渡せず、むずかしい
- だが、井田さんは大きなサイズの作品の方が楽しいとのこと
- 「自分のなかにある頭と手の不具合を調整していく作業が好き」と井田さん
<<絵画とお金について>>
- 井田さんの作品を丹下が知ってからの4年ほどで、作品の価格は40倍ほどに跳ね上がった
- 井田さんは「値段はあまり関係ない」と考えている
- 創作物は残していくことが使命
- お金はガソリンのようなもので、ないともちろん困るが逆に、お金が集中しすぎても作品に悪影響をおよぼす
- 「結果論として、お金がついてくるのがベスト」と井田さん
- 井田さんは自分が売れているとも思っていない
- あるのは「いいものをつくりたい」という欲求だけ
- 単体の絵よりも、その前後にあるストーリーの方が重要
- 制作期間の記憶はあるが、作品ができてしまうと「次に行きたい」と思う
- 20代の自分を残しておきたいと思い、思い入れのある大きな作品を描いていた
- 30代でも40代でも、自分の根幹は変わらない
- それが変わらない限りは絵を描けるし、なくなってしまえば絵を描くのを辞めるとのこと
アートの価値を決めるのは「人類への貢献度」
丹下からの質問:参考にしているアーティストは?
- 丹下は、「描くのが上手い」「自分で描くものをディレクションできる」「セレブに所有されている」という3点から、井田さんをよくアンディ・ウォーフォルやバスキアに例えている
- ウォーフォルやバスキアを参考にしているか聞かれた井田さんは、「特に参考にはしていない」と回答
- 特に、絵のもち手に関しては、「絵がもち手の人を選ぶ」と考えている
- 自分自身が素晴らしいから、有名人やセレブに出会えたわけではない
- 「絵は僕の人生を豊かにしてくれる先生だし、友人」という井田さんの言葉に丹下は感動
- 井田さんの作品を求めて有名人から連絡がくると、いまでも驚くとのこと
丹下からの質問:アートが人気になっていることをどう思うか?
- IT企業経営者や、若い人がアートに興味をもつようになってきていることをどう思うか丹下が質問
- 井田さんは「全体的には素晴らしいことだと思います」と肯定
- ただ、アートは簡単な業種ではなく、アートはふれるだけでは足りない
- アートにふれることで、自分の文化度やリテラシーを高めるきっかけとして芸術をとらえてほしい
- 流行るだけでは、いつかすたれてしまう
- 人間の存在と同じく、アートも普遍的なもの
- 同じ時間にいる、ともに歩んでいることを自覚してほしい
丹下からの質問:高価なアートと、そうでないアートの違いは?
- 数十万円の服や家具もアートと捉えられるが、井田さんの絵は数千万円
- 丹下が、その価格の違いはどこにあるのか質問
- 井田さんは、一概には言えないと前置きしつつ「人類への貢献度」と答える
- アートだけでなく、貢献するものや人のところにお金が集まる、という簡単な構造
- 「どれだけ人の心が震え、感動したか」ということ
「何か」を達成した瞬間に引退するのが夢
丹下からの質問:海外に拠点を置くことをどうとらえているか?
- 井田さんは「海外にはどんどん挑戦していくべき」としつつ、「『ニューヨークをベースにすることが正義』というような価値観はいまの時代では古いのかな」と回答
- コロナがなければ、いつでも、どこの国でも行ける時代
- 海外の価値観を吸収したければ、1年でも半年でも行けばいいだけ
- ベースをどこに置くかよりも、そこで何を得るかの方が大事なので、あまり意識しなくてもいい
- ただし、日本を俯瞰するためにも、海外や外から見ることは不可欠
丹下からの質問:この先の50年をどう過ごす?
- 井田さんは現在31歳
- 80代で活躍するアーティストもいることから、「50年どう過ごす?」と丹下から質問が
- 井田さんは「何かを達成して終わりたい」と断言
- 達成した瞬間に引退するのが夢
- その「達成」が何かはまだわかっていない
- いまはとりあえず、自分ができることをとにかく突き詰めている
- それが絵を描くことだし、作品をつくること
- 50年経って、自分がどんなことをしているかはわからない
- その世界に行ったときに自分がどんな絵が描けるのか、想像しながらわくわくしたり絶望したりしている
丹下からの質問:モチベーションはどう維持している?
- 井田さんは以前、丹下に「毎日、壁に向かって孤独と闘っている!」と言っていた
- そのなかでモチベーションを維持できているのは、ずっと絵としゃべっているから
- 「絵がしゃべってくれなくなるとすごくさみしい」と井田さん
丹下からの最後の質問:若手へのメッセージを!
- 芸術に限らず、仕事とは「人様に尽くすこと」
- あまり肩ひじ張らず、気楽に楽しく仕事をしていくといい
- 井田さんから若手へのメッセージが贈られたところで、「密談」は終了!